今年6月、医薬品を含む健康長寿産業を戦略的分野の1つと位置付けた「日本再興戦略」が閣議決定されるとともに、「健康・医療戦略」が取りまとめられた。さらに同月、「医薬品産業ビジョン2013」が策定され、日本を魅力ある創薬の場とするための中長期的な道筋が示された。これらを受け、日本製薬工業協会は9月13日、都内で政策セミナーを開催。そこでは製薬産業の現状や課題が指摘され、今後の医薬品産業が目指すべき将来像が示された。
「アカデミアと製薬企業の連携強化が必要」と訴えたのは京都大学iPS細胞研究所顧問の阿曽沼慎司氏。阿曽沼氏によると、医薬品の貿易収支は輸入超過が続いており、2012年には10年前の約5倍となる1兆6203億円となった。阿曽沼氏は、「国内の製薬企業だけで日本の医薬品市場の全てを賄うことは不可能であり、現実的ではない。入超になることはしかたないこと」と述べる一方で、日本の製薬企業には、「入超分を海外の市場で取り返すくらいの考えが必要」と強調した。
阿曽沼氏は「基礎研究を臨床研究につなげる体制づくりが重要」と指摘する。08年?11年に『Nature』や『Cell』など権威のある科学雑誌に掲載された日本発の基礎研究論文数は266で、世界4番目の数となる。しかし『NEJM』『Lancet』などに掲載された臨床研究論文数は55となり、その数は世界で25番目に下がってしまう。阿曽沼氏は、製薬企業と総合大学がコンソーシアムを組むことで、臨床研究につなげる体制が整備できると主張する。「臨床研究をするためには病院が必要となるため、大学病院を持っている大学とコンソーシアムを組む必要がある。また近年、薬の種類も変わってきており、医学部、薬学部だけではなく、農学部や工学部など総合大学が持つ他分野のリソースの活用も基礎研究に大いに役立つ」。この試みが新たな創薬につながると期待を込めた。