信州大学と県が共同で取り組む新材料技術の事業化プロジェクトがこのほど、文部科学省の公募事業に採択された。信大が強みを持つ材料技術により、高機能・高耐久型人工関節開発など3分野で事業化を図り、県内企業が技術を活用展開する道筋を探りながら持続的な産業創出を目指す。事業規模は年間1.4億円程度で最長5年間。
事業の核となる信大の技術「フラックス法」は、多様な溶媒(フラックス)を用いて結晶の形態をさまざまに制御することで材料の機能性を向上させる手法。国内外の研究機関から年間約100件の引き合いがあり、信大は同分野では国内随一の研究拠点だ。
プロジェクトはこの技術を生かし、生体適合性材料、電子材料、水処理の3分野で商品化や技術移転を目指す。このうち同大バイオメディカル研究所長の齋藤直人教授が中心となる生体適合性材料事業化の取り組みでは、フラックス結晶の骨との親和性を利用し、長期間の使用に耐える人工関節を実現したいとする。高機能高耐久型の人工関節や脊椎椎体スペーサの開発が目標だ。
一方、県は県テクノ財団と連携してフラックス活用展開の研究会を近く設置。各プロジェクトに関係する県内企業の参加を求め、新技術を活用した研究開発プロジェクトを創出し、県内企業の事業化を支援していくとする。
4日に県庁で開いた記者会見で、阿部守一知事は「新技術を積極的に生かしていくことが地域の産業活性化に寄与する。(絶え間なく新技術や新製品が創出される生態系のような)エコシステムを作っていく取り組みを連携の中で進めていきたい」と話し、プロジェクトに期待を寄せた。
県は、早期の研究会設置を目指すとともに、県工業技術総合センターに評価設備を毎年1台程度整備し、研究開発をサポートする方針。大学や企業、行政が一体となって事業化戦略の策定から計画実施、事業化までを実施することで、持続的な産業創出の仕組み形成を目指す取り組みに注目が集まる。【8月7日号タイムスFaxに掲載】