上田薬剤師会(飯島康典会長)は17日、上田薬剤師会館で特別講演会を開き、会員の薬剤師ら28人が参加した。厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課主査の松本千寿氏が「精神保健行政の動向と薬剤師への期待」と題して講演し、精神疾患患者について、「入院医療から地域生活に移行していくことが重要。患者の話を聞いたり、薬をきちんと飲まない人への対処など薬剤師にもサポートをお願いしたい」と協力を呼びかけた。
松本氏は厚労省の患者調査で、精神病床に1年以上入院していた患者の約3割が死亡しているというデータを示し、1年未満で退院させることが大事と強調した。精神保健行政の動向として、2004年に精神保健福祉対策本部が改革ビジョンを打ち出し、「入院医療中心から地域生活中心へ」というスローガンを掲げたことが大きな区切りで、数多い精神疾患入院患者を地域移行させていく流れになったと解説した。
16年度は長期入院精神障害者の地域移行への取り組みに積極的な地域において、地域移行方策と病院の構造改革に係る取り組みを総合的に行い、その効果について検証する「長期入院精神障害者地域移行総合的推進体制検証事業」を実施したことを明かした。自治体で行っている取り組み例として、精神科病院を退院後に地域で生活している人を「ピアサポーター」として認知・育成を行い、実体験から退院後の良かった経験などを入院患者に話してもらい、意欲を喚起させるような当事者同士のサポートなどを紹介した。
こうした構造改革により将来的には精神科病床を削減してその部分を急性期で活用し、病院の外に人や物などの資源を出していき、デイケアや訪問診療、薬局などの地域医療を強化していきたいとした。そのためには地域包括ケアシステムの構築が必要で、自治体や市町村、圏域、都道府県など重層的なサポートが重要と説いた。
また、治療抵抗性統合失調症治療薬のクロザピンについて触れ、無顆粒球症などの副作用の懸念からまだ日本では諸外国に比べて普及していないが、無顆粒球症など重大な副作用の早期発見・治療を目的とするCPMS(クロザピン患者モニタリングサービス)の登録医療機関が今後増えていけば良いと話した。入院導入を特定の病院で行い、最も副作用が出やすい時期を安全に経過させることで同薬使用の不安を軽減させるといった他県の連携モデル事業についても説明し、今後の国内での普及率向上に期待を示した。
飯島会長は「今までほとんど未開のテーマだった精神科関連にも踏み込んでいかなければならないことと、現場の薬剤師同士で情報交換をして関係性を築いてもらいたいなどの理由から今回の講演会を企画した。地域包括ケアの中で薬剤師がどのように貢献していくか考える必要がある」と話している。【3月22日号タイムスFaxに掲載】