2010年02月26日

米国の病院で形成された二重の権力構造

 ハーバード公衆衛生大学院国際保健学部武見プログラムリサーチ・フェローの松田満和子氏によると、米国の病院では1960年代に二重の権力構造が形成されたのだという。専門職部門(医師の長―医師、看護師やコメディカルの長―看護師やコメディカルのスタッフ)、管理部門(経営陣―医事課の長―スタッフ)という構造だ。社会システムが官僚制へとシフトする中で、この構造ができあがったのだが、20年近く前から多くの組織でピラミッド型からフラット型への転換が問われている。官僚制の限界が長らく指摘され続けてきたとはいえ、特に大規模組織が官僚制を保持しているのは、きわめて合理的な統治システムだからだ。だが、チーム医療ではフラット型組織が機能しないと、各職種が専門性を発揮しにくい。社会学が専門の松田氏は「医療界には医療以外の分野からのアプローチが求められている」と主張するが、組織論に対しては経営学からのアプローチが必要なのだろう。(ぐるりん)

2010年01月26日

不況期の診療報酬プラス改定

 10年ぶりの診療報酬プラス改定について「この上げ幅では経営の建て直しはできない」と批判する医療機関経営者は多い。全日本病院協会の西澤寛俊会長は「ゼロが一桁多いことを期待していた」と述べ、茨城県医師会の鈴木邦彦理事も「上げ幅が少ないという意見を持った」。だが、2人とも、この不況期のプラス改定を評価している。過去10年間の医療費抑制を補うには遠くおよばないが、かりに自民党政権が続いていたら――?実際、アップ分は人件費に反映できず、借入れ返済に充当されることになるのかもしれない。改定のプロセスで、各団体も与党も、医療機関の視点に傾斜していたことが惜しまれる。提供体制を再建しないことには医療の質向上はかなわないが、川下産業が消費者至上主義であるように、医療政策も患者視点に立つことが説得力をうみ出す。(権堂)

2010年01月07日

取り残された精神科救急体制構築

 2010年度厚生労働省予算案を見ると、医療関連予算で「精神科救急医療体制の充実・強化」が明記されている。精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者に対応する救急施設の受入体制を強化するというものだが、進退合併症対応施設は全国で47カ所しかなく、絶対数を増やすことが不可欠だ。今回の診療報酬改定では一般救急への手厚い配分がなされているが、精神科救急はどうなっているのか。
 うつ病をはじめ精神疾患の患者は毎年増加おり、重症度の高い患者も比例して増えている。身体疾患と同様、精神疾患にも休日はないのに、土日祝日年末年始の救急に対応できる精神科をもつ医療機関はあまりにも少ない。
 行政刷新会議の「事業仕分け」で、精神科のクリニックが他の診療科と比べ大幅な増加傾向にあるとのデータが出された。1次医療を担う環境は整備されつつある。2次医療の整備にも早期に手をつけるべきだ。(ハマッコ)

2010年01月04日

療養病床と在宅医療の相互乗り入れは残すべきだ

 入院医療から在宅医療へ患者を誘導する政策がとられ続けている。 一般病床の入院日数は短ければ評価され、療養病床への評価は下げられている。
 しかし、「在宅医療に患者を戻せないケースもある」という医療現場の声が存在するのも事実だ。中医協でもNICUから在宅に戻すことは不可能に近いという意見が出るなど、病院重視の論調は根強い。患者や家族も、自宅で疾患が悪化した場合に対応する苦労を考え、24時間医療従事者とのつながりが保てる入院を希望するケースが多い。
 厚生労働省によると、高齢者夫婦の核家族化は年々進行しており、2025年には75歳以上高齢者の半分以上が夫婦2人世帯になるという。いわゆる「老・老介護」が進行し、要介護者が要介護者の世話をするようになる。在宅の介護施設の整備促進が不可欠だが、安心と介護者の安らぎのため、療養病床と在宅との出入りを極端に制限するような施策は避けた方が無難ではないだろうか。(ハマッコ)

2009年12月18日

収入比較は不毛な議論

 開業医の収入が勤務医よりも恵まれているかどうかに焦点を当てることには勤務医も疑問を呈している。開業医は中小企業の経営者と同様だ。先代の資産を継承できる開業医もいれば、開業資金の返済に苦しむ創業者もいる。千差万別である。算出方法の妥当性がどうであれ、平均値を算出して高低を論じても現実は見えてこない。中小企業の経営者とサラリーマンの収入を比較するのが不毛であるように、開業医と勤務医の収入比較は不毛である。そもそも診療報酬改定に際して収入比較にスポットを当てることは、適切でない。かりに医師の収入水準が他業種・他職種と比較して妥当かどうかという議論を行ったところで、適正な基準もなく、感情論に流されるだけで真っ当な結論は出まい。(ぐるりん号)

2009年12月11日

看護師の協調について

 看護師は人間の生死を目の当たりにする厳しい仕事だ。女社会で「患者に尽くす」を第一に考える現場では、民間企業に勤める女性のように、「社会貢献はもちろんのこと、まずは男性社会で自分の地位を確立する」という努力にいそしむ必要がない。逆に「女同士でどう協調しあうか」が大問題になる。ある看護課長いわく「全く指示に従わない部下がいる。いくら面と向かって議論しても事態が進展しない」。逆にうまくいく看護師の上司と部下の関係は、「真っ向から議論し合い、時に部下が上司に意見しても、部下が相対的に仕事で結果を出す」という状況のようだ。女社会で生きるのは、女性同士における一種の「ケンカなれ」が必要だ。ケンカ経験の浅い看護師が落ち込んでいたら、時に男性の励ましが有効だ。医療従事者の男性は「女同士のことだから」と見てみぬふりせず、時に介入する勇気を、と願う。(suzie)

2009年12月10日

診断名変更が患者に与える絶望感

 幼い頃より、神経系の長患いを持っている。物心ついたときには、親に手を引かれありとあらゆる病院や診療科を訪ね、その度に原因不明と匙を投げられた。医者にかかるのも嫌になったころ、ある診断が下され、その治療のための処置が8年間行われた。しかし、「20歳を過ぎたら落ち着く」と言われている症状は一向に好転せず、それに伴い医師への不信感も募った。
「この8年間はなんだったのか」と絶望していたところに、たまたま読んでいた医療系の雑誌に似たような症状があると記載があり、一縷の望みにかけて脳神経内科を訪ねた。初診から1年後に下された診断名は、似て非なるものだった。その瞬間、8年間の治療が大きな意味を成さなかったことが確定し、絶望に打ちひしがれたことを鮮明に覚えている。
 医療の進歩により、難病に対しより適切な診断名がつけられるのは仕方がないと思う。だが、それまでに投資してきた医療費や時間が「無駄であった」という空虚感は、その期間の長さに比例して大きくなる。その面をケアすることもまた、医師の役目の一つではないかと思う。(ハマッコ)

2009年11月27日

その研修、指導者は本当に適任か!

 病院の業績を劇的に向上させるバランスト・スコアカード(BSC)の研究会で、大学教授に、BSCによる成果は病院長のリーダーシップ次第とはいえ、指導にあたるコンサルタントの力量にも大きく左右されるのはないかと尋ねた。「戦略マップが抜けたBSCを導入している例がある。教える側が理解していないのではないか」と教授は嘆いた。SWOT分析もKJ法も、指導者が真に手法を理解していなければ分析ごっこで終わり、研修費は水泡に帰する。学生時代、川喜田二郎氏とともにKJ法開発に関わった教授からKJ法の特訓を受けたことを思い出した。作業が終了するまで飲酒と入浴は禁止。これがKJ法の鉄則という。なんで?「集中力がとぎれ、発想に支障をきたすから」。あまたある分析手法や組織活性化手法に、V字回復をかけて相応のコストを注ぎ込む時代。指導者が適任かどうか、よくよく見極めないと。(山下公園)

2009年11月26日

子育て女医が働ける性差医療の現場

 女性特有の疾患に全人的医療で取り組む性差医療の現場をいくつか取材した。女医が一様に言うのは、「勤務医の過酷な生活では、子育て時には不都合がある」それで「問診などをじっくり行う性差医療に共感した。自分のペースで性差医療を提供するのは医師のQOL向上につながる」というもの。クリニックを開設したある女性医師は、子どもの運動会休暇など、子どものライフサイクルに合わせた休暇制度をつくり、ローテーションで3~4名の女医とクリニックを運営している。たまに全医師が出勤しない日も出てきてしまうという。しかし女性クリニックは予約制が多いので、何とか調整して運営しているようだ。「戻ってきたいと言っている医師の席は、必ず用意して待っている。ただし経営上なんとか黒字という現状で、産休は待てるが、育休は待てない」とは同クリニック理事長の言葉だ。産休に入る女医に対する姿勢を明示し、離職させない。こうした離職防止策と柔軟な対応が、今後ますます医療機関に求められてくるだろう。(suzie)

2009年11月19日

介護への人材供給は、アフターフォローも用意せよ。

 雇用創出の場として「介護」が注目を集めている。政府の緊急雇用対策でも「緊急雇用創造プログラム」の一環として、働きながら資格を取得できるためのプログラムを作成、各都道府県に事業費として補正予算を組むよう呼びかけている。
 介護職員が慢性的に不足している現在、人材育成に投資することは結構なことであり、理念についてケチをつける気も毛頭ない。しかし、「3K職場」と呼ばれる介護現場へのネガティブなイメージの払拭も、同時に行われるべきだろう。雇用に結びついても、職場に魅力を感じられなければ、「他に仕事がないとはいえ、自分は一生この仕事をしなければいけないのか」と精神的に病んでしまう可能性もある。介護職は、利用者(顧客)個々人のニーズを汲み取らなければいけないのでマニュアル化できる範囲も限られ、また介護分野そのものが発展途上のため目指すべきロードマップもない(だからこそ面白い、ということも事実なのだが)。人を送り込むだけでなく、その後のフォローも国が面倒を見る必要が国にはある。(ハマッコ)